肝炎について
肝臓の疾患はかなり進行しないと自覚症状が現れないことが多く、沈黙の臓器と呼ばれています。肝炎には、重篤な症状を起こすものや進行してがんの発症につながる可能性があるものもあります。肝炎というとお酒をたくさん飲む方に多いイメージがあると思いますが、実は飲酒習慣がほとんどない方が発症するケースも珍しくありません。健康診断などで肝臓疾患が疑われたら、受診して適切な治療を受けることが重要です。
また、肝炎の中でもウイルス性肝炎に関しては、気付かない間に感染しているケースがあります。気付かずに他の病気の治療で免疫抑制剤を使用した場合、劇症肝炎を発症して命に危険がおよぶケースもあります。また、ご家族などにも感染が広がってしまうウイルス性肝炎もありますので、肝機能検査では異常がなくても、一度は肝炎検査を受けることをおすすめしています。
ウイルス性肝炎検査が必要な方
- 1985(昭和60年)年以前に生まれた方※
- 輸血をともなう大きな手術を受けたことがある
- 刺青やタトゥーを入れたことがある
- 医療機関ではないところでピアスの穴を開けたことがある
- B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス検査の検査を受けたことがない
- B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染しているご家族がいる
- ご家族で肝臓がんになった方がいる
- 健康診断で肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT))の値の異常を指摘された
※翌年の1986(昭和61年)年から母子感染予防策が実施されるようになったため、前年までに生まれた方は母子感染している可能性があります。
当院の肝炎治療
A型肝炎
A型肝炎ウイルスに感染して発症します。この疾患は、A型肝炎ウイルスに汚染された食物を摂取することで感染します。このウイルスを自然にためこんでいた貝を食べる、調理人の手に付着していたウイルスが食物に付着するなどによって感染が起こります。このウイルスは便から排出され、それが感染を広げてしまうことがあります。
潜伏期間が約1ヶ月あり、発熱や倦怠感の他に、黄疸という症状が現れることが特徴です。黄疸は白目や皮膚が黄色っぽくなる症状です。入院して治療を受ければ数週間でほとんどがよくなります。また、後遺症などもありません。A型肝炎は気付かないほど軽度の症状の場合もありますが、命にかかわる劇症肝炎が起こる場合もありますので注意が必要です。
衛生環境がよくなってきたことから、自然感染が日本では減ってきています。そのため、高齢者以外の日本人のほとんどがこのウイルスの免疫を持っていません。東南アジアなどではまだ感染リスクが高いため、渡航の際にはワクチン接種をおすすめしています。
B型肝炎
B型肝炎ウイルスに感染して発症します。B型肝炎ウイルスに感染している人の血液や体液を介して感染し、母子感染の他に、輸血、臓器移植、性的接触、刺青、ピアスの穴開け、針刺し事故などが感染経路です。
B型肝炎には一過性感染と持続感染があります。感染した時の健康状態によって6ヶ月以上にわたって感染が持続すると持続感染となります。B型慢性肝炎を発病する可能性があるのは持続感染です。
B型慢性肝炎はウイルスを体から完全に排除することが難しい疾患です。そのため、治療では、インターフェロン療法や核酸アナログ製剤療法といった抗ウイルス療法、そして内服や注射による肝庇護療法を行います。これによってウイルスの増殖力を低下させ、肝炎の症状を抑制していきます。
C型肝炎
C型肝炎ウイルスに感染して発症します。C型肝炎に感染している人の血液や体液を介して感染し、発症します。持続感染が起こる割合は70~80%と高く、慢性肝炎や肝硬変、さらに肝がんへ進行する可能性もあります。
以前はインターフェロンを含む3剤併用療法が行われており、インフルエンザのような副作用が出るなど問題が多かったのですが、2014年以降、効果が高く副作用のほとんどない経口薬による治療法が登場しています。
治療では、経口薬であるダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法を行います。これは副作用が軽く、ウイルス除去成功率も約85%と高いことが特徴になっています。また、遺伝子型2型のウイルスに対する経口薬であるソバルディやハーボニーなどの新薬も登場し、治療が大きく進歩しています。
脂肪肝
肝臓に過剰な脂肪が蓄積された状態です。アルコールの過剰摂取、肥満・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)といった生活習慣病、薬剤摂取などが主な原因になっており、自覚症状がほとんどなく進行します。
慢性化した脂肪肝は肝硬変や肝がんを引き起こす可能性がありますが、生活習慣の改善で解消可能です。アルコールを控え、バランスの良い食生活、適度な運動などを心がけてください。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
お酒をあまり飲まない方にも起こるタイプの脂肪肝炎です。原因として肥満・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)といった生活習慣病、薬剤摂取などが指摘されていますが、まだよくわかっていません。血液検査では確定診断ができないため、肝臓の組織や細胞の一部を採取する肝生検が必要です。肝生検では肝臓に針を刺して組織を採取します。
自覚症状なく進行し、肝硬変や肝がんを引き起こす可能性があります。治療では生活習慣改善が特に重要となる疾患です。栄養バランスがよくエネルギー量の少ない食事をとり、適度な運動を習慣として行ってください。生活習慣改善で思うような効果が現れない場合には、薬物療法が必要になってくる場合もあります。
肝炎の治療助成金申請
茨城県では、肝炎治療費助成制度を導入しています。助成の対象となるのは、下記の要件をすべて満たす方です。また、肝炎ウイルス陽性者フォローアップ事業に賛同することなども条件に含まれます。詳しい条件などについては県のサイトをご覧ください。
- C型ウイルス肝炎の根治を目的として行われるインターフェロン治療およびインターフェロンフリー治療ならびにB型ウイルス性肝炎に対して行われるインターフェロン治療および核酸アナログ製剤治療を行う方で認定基準を満たす方
- 茨城県に住民登録している方
- 国民健康保険等各種医療保険に加入している方
ただし、他の法令の規定により、国または地方公共団体の負担による医療に関する給付を受けている方は対象となりません。
また、助成を受けられる期間は、使用する薬剤などにより1年間、7ヶ月、5ヶ月、4ヶ月などがあり、延長や更新、2回目の制度利用が可能なものもあります。
月額の自己負担金に関しては、世帯の市町村民税(所得割)課税年額によって違いがあります。
申請には保健所が発行している“肝炎治療受給者証交付申請書”“肝炎治療受給者証の交付申請に係る診断書”への記入の他、“肝疾患診療連携拠点病院に常勤する肝臓専門医の意見書(インターフェロンフリー治療(再治療)に対する意見書)”“世帯全員の住民票”“世帯全員の市町村民税の課税年額を証明する書類”“健康保険証(コピー)”“切手を貼った返信用の封筒”が必要です。
なお、肝炎治療受給者証の交付申請を行って、実際に受給者証が交付されるまでに2~3か月程度かかります。その間に支払った医療費については助成の該当となる場合がありますので、レシートや領収書などを必ず保管しておいてください。
詳しくは茨城県のサイトをご確認ください。
茨城県サイト 肝炎治療費助成制度
http://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/yobo/shitpei/yobo/kanen/kanen-josei.html
B型ウイルス性肝炎とC型ウイルス性肝炎の治療
肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊される肝炎はさまざまな原因により起こりますが、日本ではB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルス感染によるものが多くなっています。日本には210~280万人のB型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス感染者いると推測されています。40歳以上に多いのですが、近年になって若い方のB型肝炎ウイルス感染が増えてきていると指摘されています。
ウイルス性肝炎もできるだけ早く適切な治療を受けることで肝硬変や肝臓がんへの進行を抑えることができます。
ウイルス性肝炎は、現在、治せる病気、あるいはコントロールできる病気になっています。しっかり検査を受け、適切な治療を受けてください。
B型ウイルス性肝炎の治療
近年になって長期にわたって肝機能の安定化を維持することが可能な経口薬が登場しています。以前のインターフェロンによる治療は副作用が大きく、経口薬は耐性を持ったウイルスの問題が起きていましたが、こうした問題も解決されています。これにより、非活動性キャリア・ヘルシーキャリアーをキープして肝臓病の悪化を予防できるようになっています。ただし体内からウイルスを完全排除することはまだできないため、症状を抑え、肝硬変への進展を抑制し、肝臓がん発生予防が治療目的となっています。
B型ウイルス性肝炎の予防接種
B型ウイルス性肝炎は唾液でも感染する可能性があり、知らない間にご家族などに感染を広げてしまう可能性があります。日常生活に注意することも重要ですし、ご家族も検査を受け、感染していない場合にはワクチンの接種をおすすめしています。現在、国内では乳児向けにB型ウイルス性肝炎ワクチンの定期接種がはじまっていますが、このワクチンは成人にも有効です。
C型ウイルス性肝炎の治療
1990年に確定診断ができるようになるまで、C型ウイルス性肝炎は原因不明の肝炎として扱われていました。現在は医療の進歩により、95%以上の確率でC型肝炎ウイルスを体内から排除可能になり、完治が望める病気になっています。これにより、C型ウイルス性肝炎の感染者数が約130万人から約13万人にまで激減しています。なお、現在使われている治療薬は腎臓が悪い方や透析中の方も投与が可能ですが、基礎疾患や併用薬に関しての厳重な注意が必要です。
C型肝炎ウイルスには6種類あり、それぞれ遺伝子型が違います。種類によって違いはありますが、治療期間は3~6ヵ月間が目安になっています。
肝炎とがんについて
肝炎の問題点は、治療を受けても一部の方には肝臓がんの発生リスクが残ってしまうことです。肝硬変があるとさらにリスクが高まりますので、肝臓病が進行してしまう前の早い段階で適切な治療を受けることが重要です。
肝臓がんを予防するためには、治療を受けて肝炎ウイルスが排除された場合でも、定期的なチェックを受けることが重要です。当院では、治療だけでなく、的確なフォローを丁寧に行っていき、肝臓の状態を含めた健康保持をサポートしています。
フォローアップ
茨城県では、肝炎ウイルス陽性者フォローアップ事業を行っています。肝炎ウイルスに感染した場合、自覚症状がないまま症状が進行し、慢性肝炎や肝硬変、肝がんになる可能性があることから、治療の必要がない場合でも、定期的に医療機関を受診して、状態を確認することが重要になってきます。
この事業は、肝炎ウイルス陽性の方をバックアップしていくためのもので、さまざまな相談や支援などを行っています。事業に賛同した場合、医療機関の受診状況や治療内容を確認する調査票の提出などが必要になります。